民事信託を扱う士業は、司法書士、行政書士、税理士、弁護士だと思います。このなかで、どの士業に依頼するのが良いのか悩んでいらっしゃる方も多いと思います。この問題を考えるヒントは、それぞれの士業の資格がどのような資格かを考えると見えてくると思います。

 もともと、司法書士は、不動産登記、法人登記などの登記をするための資格です。登記申請には専門的な知識が必要であり、資格を取るためにはそのための法律知識が要求されます。しかし、その知識はあくまで法務局に登記を申請するための知識です。法的な問題に取り組んで問題を解決するための知識ではありません。問題解決のための法知識と申請業務に用いる法知識では観点が異なるため、申請業務のための知識があったとしても、問題解決に応用できるとは限らないのです。

 行政書士も同様です。行政書士は行政機関に許認可の申請をするための資格です。その知識はあくまで行政機関に許認可申請をするための知識であり、法的問題を解決するための知識ではありません。

 税理士に至っては、税金に関する法律の専門家ではありますが、民法などの法律知識は受験科目ですらなく、問題解決のための法的知識はあまり期待できません。

 他方で弁護士は、法律を用いたあらゆる問題を解決するための資格です。司法試験は、問題解決のために法律を使う能力があるか否かを試す試験です。弁護士は、司法試験に合格した後は、裁判所が設立する司法研修所において、問題解決のための方法をたたき込まれます。依頼者から話を聞き取り、その中から法的問題を抽出し、自分の依頼者の利益を最大化しつつ、できればWINーWINを目指して、当事者の利益をバランス良く考えて問題の解決を図っていく。そういう能力を専門的に育成されています。

 では、民事信託の組成に要求されるのはどのような能力でしょうか。民事信託は、委託者の思いを、受託者に、信じて託す制度です。家族信託の組成においては、家族の中に入って、親世代・子世代の希望や想いを聞き取り、家族の方々の感情や気持ちに配慮しながら、家族間の利益を調整し、それを法的に構成して、出来ればWIN-WINを目指していく作業です。つまり、オーダーメイドで紛争予防のしくみを構築していく作業です。

 実は、これは、弁護士が普段やっている仕事とほとんど同じです。

 司法書士、行政書士、税理士は、定型的に繰り返す申請業務が仕事の中心ですし、問題解決の専門家ではありません。民事信託の組成は、司法書士、行政書士、税理士が普段行っている業務内容と大きく異なっています。

 弁護士が民事信託の組成を行おうと思えば信託法を勉強するだけで足ります。しかし、他の士業の方々は、信託法の勉強に加えて、問題抽出やそれを法的に構成する能力、紛争解決全般について0から学び直さなければなりません。実際に熱意をもって勉強されている他の士業の方もいらっしゃいますが、国家予算を投じて専門的に育成されている弁護士との差を埋めることは、実際には、並大抵のことではありません。

 また、紛争を予防するためには紛争を知らなければなりません。弁護士は、依頼者の代理人として、依頼者に代わって紛争を解決するのが仕事です。ですので、どういったことで紛争になるのかということについては熟知しています。しかし、他の士業の方々は、代理人として紛争を解決することを法律で禁じられています。紛争に関する知識は、主に、本で学ぶか自分自身の紛争の経験で得ることになります。つまり、弁護士と他の士業では、紛争についての知識・経験に圧倒的な差があります。このような知識の差は、民事信託の組成においても現れてきます。

 このように考えると、民事信託は、出来れば弁護士に依頼する方が良いということがご理解頂けると思います。

 とはいえ、現実には、民事信託や信託法の勉強に力を入れているのは司法書士や行政書士の方が多く、民事信託に力を入れている弁護士は多くありません。民事信託に力を入れている弁護士と運良く知り合うことができれば弁護士に依頼し、そのような弁護士が見つからなければ司法書士、行政書士、税理士を検討するという順番で選ぶのが現実的かもしれません。